珈琲

その黒い水面にミルクを落としても
灰色にはならない
僕はつまらない色覚正常者
空調の効きすぎた店内で
心臓だけが寒さに震えていた

五百円で買える週刊誌の一ページに
少女Aとしてあの子の顔が写っていた
出来合いの安っぽい愛を売って
金にかえられると知ってしまったあの子は
薄っぺらい好奇心の餌食になって
だんだん擦り減ってきっといつかいなくなる

涙も流せないほど
からからに乾いてしまった
がらんどうの体の中に
流行りのラブソングが不協和音となって
なりひびく

今日も一日生きてしまったよ
くだらないニンゲンが生きてしまったよ

 

空調の効きすぎた店内の
一番奥のテーブルで
金とぬくもりが交換されている
「すみませんでした」とくりかえす女子高生は
薄ら笑いを化粧で隠している

その黒い水面にミルクを落としても
灰色にはならない
僕はつまらない色覚正常者

涙も流せないほど
からからに乾いてしまった
がらんどうの体の中に
温かい苦味を注ぎこんで
心臓を少しだけ喜ばせる

今日も一日生きてしまったよ
くだらないニンゲンが生きてしまったよ
今日も一日生きてしまったよ